IGBTの定格や特性項目
絶対最大定格
絶対最大定格とは、一瞬でも超えてはならない許容値を示したものです。その値を超えるとその半導体は故障する可能性があり、半導体を使用する電子機器は、半導体にその値を超えるストレスが一瞬でも加わらないように設計する必要があります。
また、絶対最大定格は信頼性を保証するものではありません。絶対最大定格の範囲内で使用した場合でも、推奨条件を超えている場合は耐久性が低下し、長期間の使用に耐えない場合があります。
以下に、IGBTのデータシートに記載されている絶対最大定格の代表項目を示します。IGBTによって、記載されている絶対最大定格の項目は異なります。
項目 | 記号 | 内容 |
---|---|---|
コレクタ-エミッタ間電圧 | VCE | コレクタ-エミッタ間に印加できる最大電圧 |
ゲート-エミッタ間電圧 | VGE | ゲート-エミッタ間に印加できる最大電圧 |
コレクタ電流(DC) | IC | コレクタ端子に連続で流せる最大電流 |
コレクタ電流(パルス) | IC(PULSE) | コレクタ端子に短時間流せる最大電流 |
ダイオード順方向電流(DC)* | IF | 高速整流ダイオードに連続で流せる最大電流 |
ダイオード順方向電流(パルス)* | IF(PULSE) | 高速整流ダイオードに短時間流せる最大電流 |
短絡耐量 | tSC | 短絡に耐えられる最大時間 |
許容損失 | PD | 許容できる最大電力損失 |
動作時接合部温度 | TJ | 製品内の半導体接合部(ジャンクション)で許容できる最大温度 |
保存温度 | TSTG | 素子が動作していない状態で保存できる温度範囲 |
電気的特性
電気的特性とは、温度や電圧、電流などの条件を指定して、製品の性能を表現したものです。
以下に、データシートに記載されている電気的特性の代表項目を示します。IGBTによって、記載されている電気的特性の項目は異なります。
項目 | 記号 | 内容 | 補足説明 |
---|---|---|---|
コレクタ-エミッタ間降伏電圧 | V(BR)CES | コレクタ-エミッタ間の降伏電圧 | |
コレクタ-エミッタ間漏れ電流 | ICES | ゲート電圧0 V時のコレクタ漏れ電流 | |
ゲート-エミッタ間漏れ電流 | IGES | ゲート電圧を指定の条件にした際のゲート漏れ電流 | |
ゲートしきい電圧 | VGS(TH) | IGBTがオンし、コレクタ電流が流れ始める際のゲート電圧 | |
コレクタ-エミッタ間飽和電圧 | VCE(SAT) | ゲート電圧を指定の条件にし、コレクタ電流が指定の値になった際のコレクタ-エミッタ間電圧 | |
入力容量 | Cies | ゲート-コレクタ間容量とゲート-エミッタ間容量の和 | 参照 |
出力容量 | Coes | ゲート-コレクタ間容量とコレクタ-エミッタ間容量の和 | |
帰還容量 | Cres | ゲート-コレクタ間容量 | |
全ゲートチャージ電荷量 | QG | ゲート電圧が0 Vから指定の電圧になるまでの総電荷量 | 参照 |
ターンオン遅延時間 | td(ON) | ターンオンするまでの遅延時間 | 参照 |
ターンオン上昇時間 | tr | ターンオンするまでの上昇時間 | |
ターンオフ遅延時間 | td(OFF) | ターンオフするまでの遅延時間 | |
ターンオフ下降時間 | tf | ターンオフするまでの下降時間 | |
ターンオンスイッチング損失 | EON | ターンオン時のスイッチング損失 | |
ターンオフスイッチング損失 | EOFF | ターンオフ時のスイッチング損失 | |
エミッタ-コレクタ間 ダイオード順方向電圧* |
VF | ダイオードに順方向電流が流れたときの電圧降下 | |
エミッタ-コレクタ間 ダイオード逆方向回復時間* |
trr | ダイオードにリカバリ電流が流れてから、リカバリ電流がピーク値の90%回復するまでの時間 |
熱的特性
以下に、データシートに記載されている熱的特性の代表項目を示します。IGBTによって、記載されている熱的特性の項目は異なります。
項目 | 単位 | 内容 |
---|---|---|
IGBT熱抵抗 | RθJC(IGBT) | 半導体接合部(ジャンクション)とケース間の熱抵抗 |
ダイオード熱抵抗* | RθJC(Di) | 半導体接合部(ジャンクション)と周囲間の熱抵抗 |
静特性
以下にIGBTの代表的な静特性を示します。
IC-VCE特性
以下に、各ゲート電圧VGEにおけるコレクタ電流ICとコレクタ-エミッタ間電圧VCEの特性例を示します。IC-VCE特性は出力特性とも呼ばれます。IGBTは構造上、コレクタ-エミッタ間にPN接合が生成されます。このPN接合の接合電位(本特性例ではVCE = 1.5 V付近)を超えると、ICが流れ始めます。VGEが高いほど、指定のICを流した場合のVCEが低くなります。導通損失(IC×VCE)を低くするためには、VCE(SAT)の変化が小さくなる領域(一般的にはゲート電圧 = 15 V前後)を設定して使用します。
IC-VGE特性
以下に、コレクタ電流ICとゲート-エミッタ間電圧VGEの特性例を示します。
本特性例の場合、VGE < 10 Vの領域では、ジャンクション温度TJが高いほど、指定のICを流した場合のVGEが低くなります(負の温度係数)。一方VGE ≥ 10 Vの領域では、ジャンクション温度TJが高いほど、指定のICを流した場合のVGEが高くなります(正の温度係数)。発熱によるIGBTの破壊を防ぐため、正の温度係数の領域で使用することを推奨します。
VGE(TH)-TJ特性
以下に、ゲートしきい電圧VGE(TH)とジャンクション温度TJの特性例を示します。
TJが高いほどVGE(TH)が低くなります(負の温度係数)。回路が動作してIGBTが高温になると、低いゲート電圧でIGBTがターンオンしてしまうため、回路を設計する際はノイズなどでIGBTが誤作動しないように、温度特性によるVGE(TH)の変化を十分に考慮する必要があります。
容量特性(Cies、Coes、Cres)
以下に示すように、IGBTは構造上、寄生容量(CGC、CGE、CCE)が生成されます。これらの寄生容量はスイッチング特性に影響します。
入力容量Cies
入力容量Ciesは遅延時間に影響します。Ciesが大きいと、IGBTをターンオン/ターンオフする際に多くの電荷を充電/放電する必要があるため、ターンオン遅延時間td(ON)、ターンオフ遅延時間td(OFF)が長くなります。また、Ciesが大きいと電力損失も大きくなります。Ciesが小さいIGBTが理想です。
Ciesは以下の式で計算できます。
Cies = CGE + CGC |
出力容量Coes
出力容量Coesはターンオフ特性に影響します。Coesが大きいと、IGBTがターンオフした際にコレクタ-エミッタ間電圧VCEの電圧変化率dv/dtが小さくなり、ノイズの影響を小さくできますが、ターンオフ下降時間tfが長くなります。
Coesは以下の式で計算できます。
Coes = CCE + CGC |
帰還容量Cres
帰還容量Cresは、ミラー容量とも呼ばれます。
Cresは高周波特性に影響します。Cresが大きくなるほど、以下の特徴を示します。
- ターンオン時のコレクタ-エミッタ間電圧VCEの立ち下がり時間が長くなる
(ターンオン上昇時間trが長くなる) - ターンオフ時のコレクタ-エミッタ間電圧VCEの立ち上がり時間が長くなる
(ターンオフ下降時間tfが長くなる) - 電力損失が大きくなる
帰還容量Cresは以下の式で計算できます。
Cres = CGC |
電荷特性(QG、QGE、QGC)
全ゲートチャージ電荷量QG、ゲート-エミッタ間電荷量QGE、ゲート-コレクタ間電荷量QGCは、IGBTを駆動させるために必要な電荷量です。これらはスイッチング特性に影響します。値が小さいほど電力損失が小さくなり、高速スイッチングが可能です。
スイッチング特性(td(ON)、tr、td(OFF)、tf)
以下にスイッチング時間の測定回路を示します。
以下にスイッチング波形を示します。
ターンオン遅延時間td(ON)
VGE設定値の10%からIC設定値の10%までの時間
ターンオン上昇時間tr
IC設定値の10%から90%までの時間
ターンオン時間tON
td(ON)とtrを合計した時間
ターンオフ時間td(OFF)
VGE設定値の90%からIC設定値の90%までの時間
ターンオフ下降時間tf
IC設定値の90%から10%までの時間
ターンオフ時間tOFF
td(OFF)とtfを合計した時間
短絡特性
短絡電流ISCは、IGBT短絡時に流れる電流です。ゲート-エミッタ間電圧VGEが大きくなるほど短絡電流ISCが大きくなり、短絡耐量tSCは低下します。 また、ジャンクション温度TJが高くなるほど短絡耐量tSCは低下します。
高速整流ダイオード
IGBTにはパワーMOSFETのようにボディダイオードは存在しません。モータのような誘導負荷の制御にIGBTを使用する場合は、IGBTと高速整流ダイオード(FRD:Fast Recovery Diode)を1パッケージにした製品を使用すると、外付け部品を削減でき、回路の信頼性を向上できます。高速整流ダイオードの特徴についてはこちらを参照してください。
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