パワーMOSFETが破壊する要因
アバランシェ降伏による破壊
ドレイン-ソース間の電圧が絶対最大定格を超えて降伏電圧V(BR)DSS以上になると、アバランシェ降伏が起きます。降伏領域では以下に示す要因により、パワーMOSFETが破壊する可能性があります。
破壊の要因
電流による破壊
以下にプレーナ型パワーMOSFET(Nチャネル)の断面図を示します。降伏領域に入ると、図の(A)のようにアバランシェ電流IASが流れます。このとき寄生NPNバイポーラトランジスタのベース抵抗RBの両端に電圧が発生します。この電圧が寄生NPNバイポーラトランジスタをターンオンするベース-エミッタ間電圧以上になると、図の(B)のように電流が流れます。このときドレイン-ソース間の電圧が高いと寄生NPNバイポーラトランジスタは2次降伏し、トランジスタに流れる電流が急増します。これによりパワーMOSFETが破壊します。
エネルギによる破壊
アバランシェ降伏によるエネルギの損失で温度が上昇し、接合部温度TJが絶対最大定格を超えるとパワーMOSFETが破壊します。
dv/dtによる破壊耐量の低下
以下に示すように、パワーMOSFETはドレイン-ソース間に寄生容量CDSが生成されます。
パワーMOSFETがターンオフした際、図の(A)のように電流Iが流れます。電流Iは以下の式で計算できます。
I = CDS × dv/dt |
ここで、
CDS:寄生容量
dv/dt:ドレイン-ソース間電圧VDSの立ち上がり変化率
このとき寄生NPNバイポーラトランジスタのベース抵抗RBの両端に電圧(RB × I)が発生します。この電圧が寄生NPNバイポーラトランジスタをターンオンするベース-エミッタ間電圧以上になると、図の(B)のように電流が流れます。この結果、パワーMOSFETの破壊耐量が低下します。
パワーMOSFETターンオフ時のdv/dtが大きいほど流れる電流Iが大きくなり、寄生NPNバイポーラトランジスタがターンオンしやすくなるため注意が必要です。
対策
アバランシェ降伏による破壊を抑制するために、以下の対策が有効です。
- 配線をできるだけ太く、短くし、浮遊インダクタンスを低減する
- 外付けゲート抵抗の値を大きくし、dv/dtを小さくする
- ドレイン-ソース間にスナバ回路またはツェナーダイオードを接続し、サージ電圧を吸収する
アバランシェエネルギの測定
誘導負荷回路においてパワーMOSFETをターンオフした際に、ドレイン-ソース間の電圧が絶対最大定格を超えて降伏電圧V(BR)DSS以上になると、アバランシェ降伏が起きます。このときに流れる電流をアバランシェ電流IAS、発生するエネルギをアバランシェエネルギEASと呼びます。
以下にアバランシェエネルギの測定回路を示します。
以下にスイッチング波形を示します。
アバランシェエネルギEASは以下の式で計算できます。
EAS = 1 / 2 × L × IAS2 × V(BR)DSS / V(BR)DSS — VDD |
ここで、
EAS:アバランシェエネルギ(J)
VDD:電源電圧(V)
L:インダクタンス(H)
IAS:アバランシェ電流(A)
V(BR)DSS:ドレイン-ソース間降伏電圧(V)
SOA破壊
ドレイン電流の最大定格、ドレイン-ソース間電圧VDSの最大定格、ジャンクション温度の最大定格のいずれかが安全動作領域を超えることでパワーMOSFETが異常に発熱し、パワーMOSFETが破壊する可能性があります。
安全動作領域(SOA:Safe Operating Area)
安全動作領域(SOA:Safe Operating Area)は、パワーMOSFETが劣化や破壊することなく使用できる電流と電圧の範囲です。安全動作領域は以下の制限によって領域が区分されます。
(1) ドレイン電流の最大定格値で制限された領域
(2) オン抵抗RDS(ON)の最大値で制限された領域
(3) ジャンクション温度の最大定格値で制限された領域
(4) 2次降伏で制限された領域
(5) ドレイン-ソース間電圧VDSの最大定格値で制限された領域
データシートには、理想条件(シングルパルス、TC = 25 °Cなど)での安全動作領域グラフが記載されています。実際の動作条件に合わせてグラフをディレーティングし、安全動作領域内でパワーMOSFETを使用します。ディレーティングについてはこちらを参照してください。
ボディダイオード破壊
ソース-ドレイン間のボディダイオードを意図的に使用する回路において、ボディダイオードが逆回復する際の電流変化率(di/dt)が急峻な場合、その際の電圧変化率(dv/dt2)も急峻になります。このとき、パワーMOSFET内部の寄生NPNトランジスタがターンオンして電流が流れ、パワーMOSFETが破壊する可能性があります。
対策
- 配線をできるだけ太く、短くし、浮遊インダクタンスを低減する
- 外付けゲート抵抗の値を大きくし、dv/dt2を小さくする
- ドレイン-ソース間にスナバ回路またはツェナーダイオードを接続し、サージ電圧を吸収する
寄生発振による破壊
以下に示すように、パワーMOSFETにゲート抵抗を接続せずに並列接続すると、寄生発振しやすくなります。寄生発振によりゲート-ソース間電圧VGSが最大定格値を超えたり、パワーMOSFETが誤動作して発熱したりして、パワーMOSFETが破壊する可能性があります。
対策
- 配線をできるだけ太く、短くし、浮遊インダクタンスを低減する
- 各パワーMOSFETのゲートに抵抗を接続する
- 各パワーMOSFETのゲートにフェライトビーズを接続する
静電破壊
ゲート端子は静電気に弱いです。人体や実装装置から発生する静電気やサージ電圧がゲートに印加され、ゲートの静電気耐量を超えるとパワーMOSFETが破壊する可能性があります。
対策
- 導電性ストラップなどを使用し、人体アースをする
- 作業台では導電性のテーブルマットなどを使用する
- 装置を接地する
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