9. 静電気対策

9.1 一般的な注意

1) 作業環境

半導体デバイスを取り扱う作業環境の静電気レベルは、一般に100 V以下が基準とされています。
そのためには作業場所に静電気を発生しやすい物質を置かないことや、乾燥する時期には加湿をするなどの配慮が必要です。

2) 作業慣行

作業現場では、化学繊維やプラスチックなど、帯電しやすい絶縁物を避け、導電性や静電気拡散性のものを使用してください。
特に静電気に弱い半導体デバイスを取り扱う際は、静電作業服や静電靴を着用してください。
また、半導体デバイスを保管する際は帯電防止処理を施した容器や導電性の容器に入れるなどの配慮が必要です。
また、必要に応じて加湿器やイオナイザーを設置するなどの配慮も必要です。

3) 定期点検

作業に使用する設備や冶工具の帯電量の測定、静電マットとグランド間の抵抗測定、静電アイテム(静電床、リストストラップ、静電靴など)の抵抗測定、イオナイザーの除電能力の確認などは、定期的に実施してください。
特にイオナイザーは、除電能力が低下しないように、定期的に針先の清掃や交換をしてください。清掃や交換の方法は、イオナイザーの取扱説明書に従ってください。

9.2 作業時の静電気対策

1) 設備・冶工具

試験機器、コンベア、生産設備、作業台、フロアマット、工具、はんだ槽、はんだごてなどは必ず接地し、静電気が蓄積されないようにしてください。また、製品の保管や移動に使用する棚や台車なども接地してください。
また、半導体デバイスをPCB基板に取り付ける際にはんだごてを使用する場合は、半導体用のはんだごてを用い、こて先を接地してください。

静電対策の例

作業面は静電マットを敷き、床は静電床にして、それぞれ接地してください。

作業台と床の静電対策の例

台車は、導電性の棚面のものを使用してください。また、静電キャスターで静電床に接地してください。

移動台車の静電キャスターによる静電床への接地例

2) 作業者

作業者は静電作業服と静電靴を着用し、リストストラップなどで人体アースしてください。
一般に、静電靴の抵抗値は100 kΩ~100 MΩが良いとされています。なお、靴底や床が汚れると除電効果が低下するため、定期的に清掃をしてください。

作業着と静電靴の例

リストストラップは必ずコードタイプを使用し、接地してください。コードレスタイプは帯電電位を取り除けず、人体に200 V程度の電圧が残るといわれています。
リストストラップを接地する際は、ワニグチクリップやミノムシクリップではなく、必ずリストストラップ専用の接地冶具を使用してください。ワニグチクリップなどで裸銅線をはさんで接地する方法は、経時変化で裸銅線の表面が酸化して、十分な放電効果が得られなくなる可能性があります。


●加湿器を使用する際の注意

静電気は、湿度が30%~40%以下になると急激に発生しやすくなります。このため半導体デバイスの作業環境としては湿度を調整して45%以上に保つと良いとされています。
絶縁性の靴を履いてカーペットの上を歩行した人体には、相当量の静電気が帯電します。人体に帯電する静電気と湿度の関係を以下に示します。

湿度による静電気帯電変化(参考)

加湿器を使用する場合は、端子に錆が発生しないように、純水を使用してください。水道水を使用する場合は、煮沸などで錆の原因になる塩素を除去してから使用してください。
半導体デバイスのパッケージには、エポキシ系樹脂が多く使用されます。エポキシ系樹脂は吸湿しやすいため、湿度が高い環境で保管すると特性が劣化したり端子に錆が発生したりします。特に防湿梱包品は湿度の影響を受けやすいのでご注意ください。

加湿器を使用する際は、リード端子に錆が発生しないよう純水の使用を推奨します。水道水をご使用になる場合は煮沸などで錆の原因となる塩素を除去してからご使用ください。
半導体デバイスで多く用いられるプラスチックパッケージはエポキシ系樹脂を使用することが多く吸湿しやすいため、高湿度で保管すると特性が劣化したりリード端子に錆が発生しやすくなります。特に防湿梱包品は影響を受けやすいのでご注意ください。


●イオナイザーを使用する際の注意

接地による対策で静電気を除去できない場合や、剥離を伴う作業や摩擦が発生する作業をする場合は、必要に応じてイオナイザーを使用してください。その際は、イオナイザーの仕様(有効中和範囲など)を考慮し、作業範囲に対して必要な台数を設置してください。
イオナイザーの除電性能を維持するためには、一般に次のような定期確認や定期メンテナンスが必要です。

<定期確認>
・ 除電能力の確認
・ イオンバランスの確認

<定期メンテナンス>
・ 電極針の定期清掃
・ 電極針の定期交換

詳細は、ご使用のイオナイザーの取扱説明書をご確認いただき、不明な点はメーカーにお問い合わせください。

3) 作業方法

静電気による半導体デバイスの破壊を抑制するため、ひとつの半導体デバイスの取扱い回数をできるだけ少なく、かつ取扱い時間をできるだけ短くしてください。

9.3 実装後の静電気対策

1) 保管

半導体デバイスを実装した後のPCB基板を保管したり運搬したりする際は、帯電防止処理を施した容器に収納してください。
実装後のPCB基板を収納するときは、PCB基板やそこに搭載されている部品が接触したり重なったりしないようにしてください。

2) 取扱い

半導体デバイスを実装した後のPCB基板を取り扱う際は、リストストラップなどで人体を接地してください。
実装後のPCB基板を取り扱う際は、半導体デバイスの取付け時と同様、静電気に十分注意してください。
また、コネクタを着脱する際は、必ず電源を切ってください。

9.4 人体保護

人体アースは静電気対策として有効ですが、人体アースを施した状態で作業者が感電すると、通常以上に人体が危険にさらされます。
そのため、静電気対策と人体保護の両面に配慮して、人体と接地間に1 MΩ程度の抵抗を直列に接続し、人体アースします。
抵抗値が大きいと接地による静電気対策効果が少なくなり、抵抗値が小さいと作業者が感電した際に大電流が流れ人体が危険にさらされてしまいます。
通常、市販のリストストラップには1 MΩ程度の抵抗が内蔵されています。

9.5 半導体デバイスの静電気破壊モデル

半導体デバイスに印加される実際の静電気は、帯電している物の材質や大きさなどで電圧やパルス幅が異なります。そのため、半導体デバイスの静電気に対する耐量を定量的に測るために、国際規格で定められた静電破壊モデルを使用します。
一般的な規格を以下に示します。

1) 人体帯電モデル(HBM:Human Body Model)

帯電した人体が半導体デバイスに触れ、人体から半導体デバイスに放電することを想定したモデルです。
C = 100 pFの容量に電圧を印加して充電し、電源を切り離してから、容量に蓄えられたエネルギを放電抵抗R = 1.5 kΩを介して半導体デバイスに放電します。
半導体デバイスが劣化したときの印加電圧を静電気破壊電圧とします。

2) マシンモデル(MM:Machine Model)

装置がもつ容量に帯電したエネルギが、半導体デバイスに放電することを想定したモデルです。JEITA規格(旧EIAJ規格)で採用されていたことから「JAPANモデル」ともいわれましたが、現在では参考規格に降格されています。
C = 200 pFの容量に電圧を印加して充電し、電源を切り離してから、容量に蓄えられたエネルギを放電抵抗R = 0 Ωを介して半導体デバイスに放電します。
半導体デバイスが劣化したときの印加電圧を静電気破壊電圧とします。

3) デバイス帯電モデル(CDM:Charged Device Model)

半導体デバイスが冶工具などに擦れたり、帯電物に近付いたりして静電気を帯び、端子に接続するチップなどの内部部品が帯電し、端子から外部に放電することを想定したモデルです。
半導体デバイスの端子とパッケージ間に電圧を印加して内部に帯電させ、電源を切り離した後、端子から放電抵抗R = 1 Ωを介してグランドに放電します。
半導体デバイスが劣化したときの印加電圧を静電気破壊電圧とします。

4) パッケージ帯電モデル(CPM:Charged Package Model)

高電界により、半導体デバイスのパッケージが誘導帯電現象を起こし、パッケージに帯電したエネルギが半導体デバイスの端子から外部に放電されることを想定したモデルです。
半導体デバイスのパッケージに高電圧を印加して誘導帯電させ、端子から放電抵抗R = 0 Ωを介してグランドに放電します。
半導体デバイスが劣化したときの印加電圧を静電気破壊電圧とします。


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